准学校心理士のみなさんへケースレポート作成に向けて

[2021.3.26]
准学校心理士資格認定委員会委員長
大野精一(星槎大学大学院 教授・研究科長)

2月27日(土)の研修会はいかがだったでしょうか。
当日は,講座1で「学校心理学・教育実践におけるケースレポートの書き方」(担当 岡直樹・徳島文理大学 小澤郁美・柏原志保(広島大学),講座2で「保育現場における様々な問題・課題と学校心理士の役割について」(担当 緒方宏明・九州ルーテル学院大学)という研修でした。准学校心理士のみなさん,特に保育現場にいる若い准学校心理士のみなさんに焦点化した研修会でした。
ここを一つの起点にしながら,准学校心理士から学校心理士への資格転換を,さらに長期的には学校心理士SVへと,生涯キャリアの設計をしていただければ幸いです。
講座1で『学校心理学ケースレポートハンドブック』の内容が丁寧に解説されましたので,ここでは『実践 自分で調べる技術』(宮内泰介・上田昌文著 岩波新書 本体価格880円)について触れます。

准学校心理士のみなさんは日々に実践をインプットされ,整理や熟考する時間が持てずに時にはアップアップになっているのではないでしょうか。
実践は対象化し自分の外にアウトプットしてはじめて自分にも見えるものとなります。基本となるのはご自身の実践の省察reflection(振り返り)ですが,それを外部に発表するとなれば,いくつかのマナー(お作法)や追加調査が当然に必要になります。
前者については講座1のテーマでしたので,後者について取り上げたいと思いますが,うまい具合に最適で,しかも読みやすい新刊書(『実践 自分で調べる技術』宮内泰介・上田昌文著 岩波新書本体価格880円)が刊行されました。
この本は2004年7月に『自分で調べる技術 市民のための調査入門』(宮内泰介著 岩波アクティブ新書本体価格740円)の「全面改訂版」で,「執筆者に上田が加わり,一から書き下ろし」ものです。調査(法)は日々に進展するものですので,この本にはフォローアップ・サイトも用意されています。
本書は次のように構成されています
第1章 調べると言うこと
第2章 文献や資料を調べる
第3章 フィールドワークをする
第4章 リスクを調べる(この章で「リスクを推し量る」として統計学や疫学の考え方が紹介されています)
第5章 データ整理からアウトプットへ

ここでは,この本から三点のみ具体的な方途を書きます
1)アウトプットするには,当然にも関連する文献に当たることになります。ここで迷います。その場合には次の巨大なデータベースで検索してみて下さい。
国立国会図書館サーチ(https://iss.ndl.go.jp/)
「国会図書館が元々持っていた図書のデータベースや雑誌記事・論文などを統合し,さらにそれに外部のデータベースを連結させたもので」「本や雑誌論文などを検索する日本最大のポータルサイトと言ってよい」ものです。
2)調査に関する全体の見取り図を頭に入れておくと,「調査」の利点も限界もハッキリします。この本では「六類型」に分けています。先ず「数字(数値データ,量的データ)を集めてくる」「量的調査(定量調査)」と,「言葉(文字データ,質的データ)を集めてくる」「質的調査(定性調査)」に二分した上で,さらに対称的に類型化すれば,「書かれた数字を集めてくるのが統計調査」:「書かれた言葉を集めてくるのが文献・資料調査」,「書かれていない生(なま)の数字を人々から集めてくるのが質問紙調査(直接数字を集めるのではなく人びとに簡単な質問をして,それを「1」と答えた人何人,「3」と答えた人何人,と数字に変換していく方法)」:「書かれていない生の言葉を人びとから集めてくるのが聞き取り調査」,「聞くのではなく,見て(あるいは機器を使って)数字を集めてくるのが測定(交通量調査や降雨量測定など)」:「見て言葉を集めてくる」「例えばある人びとの集まりのなかに入れってもらい。そこで様子をうかがい,言葉で記録する観察」となります。
3)難しいのは「聞き取り調査」でしょう。「聞いた話は正しいか?」ということですが,「これは相手が嘘を言っているかどうかという問題ではありません」。「聞き取り調査」は,「お互いの関係や,聞く内容と答える内容との相互作用などが反映しながら成り立つ作業で」「聞いた話は,どういう状況のもとで聞いた話か,そして,相手の「話」はどう解釈すればいいのか,に常に注意を払っておく必要がある」からです。

総ページ数272頁の新書版で,文体も「ですます調」です。本文もわかりやすく,読みやすいものです。
この「春休み」にでも仲間と一緒にじっくりと読み込んで,議論してみて下さい。