准学校心理士のみなさんへ先の見通せない世界でどのように判断していくか

[2021.8.2]
准学校心理士資格認定委員会前委員長
大野精一(星槎大学大学院 教授・研究科長)

 まったく鬱陶しい(この漢字も!)時期が続いています。その上,暑くてたまらない。毎日くたくたになりながら各職場で誠実に専門的な職務を遂行するみなさんにはゆったりと考えを巡らす時間的なゆとりを取りにくいかと思います。それでも先の見通せない世界にあってどのように判断していくかが日々に問われ続けています。文句ばかり言わずに対案を出せという言辞は,切迫した時間の中で日々苦闘する状況下であっては理不尽極まりない言動です。
「それはあんたの責任だろう!」と言い返してもいいくらいです。
 だとしても,日々さまざまなところから出て来ている各種の対案(立論)を検討し,分析視角を定めて評価することから始める以外ありません。ここでは各種の対案に見られるその正当性の根拠付け(resoning)から検討することにします。

 このことは社会にとって重要な専門職を検討する大事な視点でもあります。最も根本的には,その考える道筋について,例えば,
法律家に関して,Thinking Like a Lawyer: A New Introduction to Legal Reasoning
看護師職については Think Like a Nurse: A Handbook
という本でも明確なように,ベテランの法律家と新人の法律家を比較すると,新人は「法律家らしくない」ないし,新人の看護師は「看護師らしくない」といえる。恐らくその考えの筋道(事態の根拠付けReasoning)が法律家らしくない,あるいは看護師らしくないのでしょう。さらに保育士らしくない,という言い方もありえます。
 おそらく先が見えない状況で,各専門職らしく考えて予測(予見)する力なのでしょう。日本における専門職教育の有り様を「Thinking Like a ~」から考え直すことも重要であり,私の勤務する大学院の発表会でもこの視点も提起されています ただ現時点では抽象度が高いので,取りあえずは若い准学校心理士のみなさんはこうして視点からベテランの方々と話をしてみて下さい。

 ここからはもう少し具体的に各種の対案に見られるその正当性の根拠付け(resoning)を見ていくことにします。
先ず第1は,データ等による事実の根拠を有するかどうかです。事実factの次元で簡単そうですが,そうは言えません。そもそも自分で確実に見聞したものでなく,何を持って信頼性の根拠とするのでしょう。偶然事象やデータ改ざん等を考えればなおさらです。
 第2には,現時点で確立した「規範」(各専門職の礎や標準であり,具体的にはスキルや知識,積み上げてきた実践事例や永年の議論の到達点等)に根拠付け(resoning)られるかどうかです。自然科学での明晰・明瞭な確証(測定や観測,実験等)と同じくらいの「規範」(法則や定理等)であれば,帰納的に結論が導かれるかも知れませんが,解決方略等に対する「定説」(強い規範)すらないといえる准学校心理士のみなさんの職域ではどうしたらいいのでしょうか。まして今までの経験や体験等では見られなかった新しい事象であれば,さらに難しくなります。それでも専門職として明日から対応せざるを得ません。となると,未知の課題に対して暫定的な方略を立案し,リスクを背負いながら責任(responsibility)をもってチャレンジ(challenge)することになります。
 責任は当然にも「責任者」(内閣総理大臣等)が取ります。ここで言い逃れのために逃げ道を作ったりすることは許されませんし,こうであればチャレンジではないわけです。各専門職者(組織・集団)が自己の良心や良識に従いながら,覚悟を持って論理的理性的な判断を下す厳しい場面です なお,責任という用語については,次のように説明されているようです。私はこの説明に賛成です。
「*responsibility*」:これから起こる(=未来)事柄や決定に対する責任の所在。
「*accountability*」:すでに起きた(=過去)決定や行為の結果に対する責任,またそれを説明する責任。

若い准学校心理士のみなさんは危機的状況にある現在の対応についてベテランの先輩諸氏等をよく見ながら,そこに「反面教師」も含むかも知れませんが,さまざまなことを学んで下さい。